新しい町にも慣れて、少しはご近所の人と挨拶を交わせるようになってきた。毎日のお楽しみはサイフォンでコーヒーを淹れる事と、バイト代が入った時に買うタルトとマスターのところで食べる日替わりランチだ。町の本屋でアルバイトを始めたのだが、無口なたぶん70歳くらいのご主人と2人きりなのでとても退屈なアルバイトだけど、黙々と作業をした分がタルト何ピース分になるかを換算していると楽しくなる。マスターが言っていた、カフェロワイヤルもちょっと飲んでみたい気がするし買いたいものは全てあのお店が発生の地だ。カフェロワイヤルを飲む時に必要なスプーンも欲しいし、折角のサイフォンコーヒーを飲むカップもちょっと豪華な感じがするものにしたい。無口な本屋のご主人にコーヒーカップを売っている店はどこかと尋ねてみると、「金物屋」とだけ答えてくれた。金物屋か、そう言えばアルコールの予備も買っていないし、金物屋ならカフェロワイヤル用のスプーンも置いているかも知れないと思い、バイトの帰りに寄ってみる事にした。案の定、スプーンが置いてあった。金物屋のお爺さんは「このスプーンはなかなか売っている物じゃないんだよ、なにせ、ナポレオンが偉く好んだっていう飲み物を作る為だけのスプーンなんだからね」と自慢していた。話が長くなりそうだったので、カフェロワイヤルですね、とは言わずに置いた。スプーンは1本2千円もしたが、特別な物なのでどこで買っても高いんだよ、とお爺さんが言っていたので1本だけ買う事にした。本当は姉の分も買いたかったが、買っても怒られそうなので止めておいた。それと、アルコールランプに入れる予備のアルコールだ。お爺さんは店内を見渡して、「ありゃりゃ?店の中のアルコールが品切れだ」と言った。在庫は有るらしいのでちょっと待っててくれと言って、のれんの奥へ行こうとした時に山積みになった箱が見えた。箱には、木製のミルの写真が印刷されていたように見えた。
